工事は怖くない!住民が主役になるマンション修繕の新常識

工事は怖くない!住民が主役になるマンション修繕の新常識

「また、お金の話か…。」
「どうせ専門的な話ばかりで、よくわからないまま決まってしまうんだろうな。」

築30年を迎えたあるマンションの総会で、後方から聞こえてきた小さなつぶやきです。
理事会が提案する大規模修繕工事の計画に、会場は重たい空気に包まれていました。

こんにちは。
マンション大規模修繕専門の工事管理士、佐伯慎一と申します。
かつてはゼネコンで新しいマンションを建てる仕事をしていましたが、今は「壁のヒビに、暮らしの未来を見る」仕事に情熱を注いでいます。

先ほどのような不安の声を聞くたびに、私は胸が締め付けられる思いがします。
本来、マンション修繕は自分たちの暮らしをより良くし、未来を守るための大切なイベントのはずです。
それがいつの間にか、「よくわからない怖いもの」「他人まかせの面倒ごと」になってしまっている。

この記事は、そんな風に感じているあなたのために書きました。
大丈夫です。
この記事を読み終える頃には、修繕工事への不安が「自分たちの未来を創るワクワク」に変わっていることをお約束します。
さあ、一緒に新しい常識の扉を開けてみましょう。

なぜ、マンション修繕は「他人まかせ」になってしまうのか?

そもそも、なぜ多くの人にとって修繕工事は「他人まかせ」になってしまうのでしょうか。
私がこれまで80棟以上の現場で住民の方々と対話してきた中で、その原因は大きく3つの「壁」にあると感じています。

  • 専門用語の壁:防水、シーリング、下地補修…。普段聞き慣れない言葉の連続で、思考が停止してしまう。
  • 費用の壁:数千万円、時には億を超える大きなお金が動くため、自分ごととして捉えきれない。
  • 無関心の壁:まだ住めるし、自分はいつか引っ越すかもしれない。そんな気持ちから、当事者意識が薄れてしまう。

実は、独立したての私も大きな失敗をしました。
知識と経験には自信があったため、つい専門用語を並べて工事の正しさを「説明」してしまったのです。
住民の方々の顔には「?」が浮かび、会議室はどんどん冷え切っていきました。

この経験から、私は痛いほど学びました。
大切なのは、技術の正しさを説くことではありません。
住民一人ひとりの不安に寄り添い、信頼の設計をすることなのだと。
「工事」の前に、「心」の壁を取り払うことこそが、私の本当の仕事なのです。

発想の転換。修繕は「延命」ではなく「再出発」です

もし、あなたが修繕工事を「古くなった建物を延命させるための、仕方ない出費」だと考えているなら、少しだけ見方を変えてみませんか。

私はいつも、こうお伝えしています。
「修繕は“延命”ではなく、“再出発”です」と。

それは、ただ壁を塗り替えたり、古くなった設備を取り替えたりするだけの作業ではありません。
まるで、季節の変わり目に新しい服に着替えるように、マンション全体が新たな輝きを取り戻すための、一大イベントなのです。

たとえば、外壁の色を少し明るいものに変えるだけで、毎朝の「いってきます」が少し晴れやかな気持ちになるかもしれません。
エントランスにちょっとしたベンチを置けば、そこで住民同士の新しい挨拶が生まれるかもしれません。
断熱性能の高い窓に交換すれば、冬の寒さが和らぎ、光熱費が下がるだけでなく、家族団らんの時間も増えるでしょう。

建物は、人の暮らしを映す鏡です。
修繕とは、その鏡をピカピカに磨き上げ、そこに住む人々の暮らしやコミュニティまでも明るく照らし出す、未来への投資なのです。
そう考えると、少しだけワクワクしてきませんか?

今日からできる!「主役」になるための3つのステップ

「考え方はわかったけど、具体的に何をすればいいの?」
そう思われたかもしれませんね。
大丈夫です。専門家である必要は全くありません。
住民であるあなたが主役になるための、今日からできる3つの簡単なステップをご紹介します。

ステップ1:我が家を知る「暮らしの健康診断」

まずは、一番身近な「我が家」に関心を持つことから始めましょう。
いきなり分厚い計画書を読む必要はありません。

  • ベランダの壁に、小さなヒビはありませんか?
  • 窓のサッシがガタガタして、すきま風が入りませんか?
  • 雨が降ったあと、廊下の天井にシミができていませんか?

これらはすべて、マンション全体からの小さなサインです。
いわば「暮らしの健康診断」。
自分の家の小さな変化に気づくことが、マンション全体の状態を自分ごととして捉える第一歩になります。
もし余裕があれば、ポストに投函されている長期修繕計画書や総会の議事録に一度目を通してみてください。
「来年、防水工事の予定があるのか」と知るだけでも、意識は大きく変わるはずです。

ステップ2:専門家を「通訳」に

修繕工事には、必ず専門家が関わります。
管理会社や、私たちのようなコンサルタントです。
彼らを「難しいことを言う人」ではなく、「頼れる通訳」として活用しましょう。

良い専門家は、難しい言葉を生活の言葉に置き換えて話してくれます。
「この防水工事は、いわば家全体に新しいレインコートを着せてあげるようなものです」
「このヒビは、人間の肌でいう乾燥みたいなもの。今のうちに保湿クリームを塗っておきましょう」
そんな風に話してくれる人なら、信頼できます。

特に、施工会社と資本関係がない独立系の事務所などは、常に管理組合やオーナーの側に立って、透明性の高いコンサルティングを行ってくれる傾向にあります。
例えば、長年の実績を持つ株式会社T.D.Sのような信頼できるパートナーは、大規模修繕だけでなく耐震診断までワンストップで相談に乗ってくれるため、建物の将来をトータルで考える上で心強い存在となるでしょう。

住民説明会は、絶好のチャンスです。
「こんな初歩的なことを聞いていいのかな…」なんて思う必要は全くありません。
あなたが疑問に思うことは、他の多くの住民も疑問に思っています。
勇気を出して手を挙げ、その一声が、全体の理解を深めるきっかけになるのです。

ステップ3:小さな声で「未来」を選ぶ

大規模修繕は、まさに自分たちのマンションの未来を選択する行為です。
「どうせ自分の意見なんて反映されない」と諦めないでください。

工事前に行われるアンケートには、ぜひあなたの声を届けてください。
「ベビーカーが通りやすいように、スロープが欲しい」
「夜、もう少しエントランスが明るいと安心できる」
そうした一つひとつの「暮らしの声」が、修繕計画をより良いものへと育てていきます。

理事会に意見を伝えたり、説明会で質問したりするのも素晴らしいアクションです。
一人の声がきっかけで、工事の仕様が見直され、何十年にもわたる暮らしの快適さが向上したケースを、私は何度も見てきました。
あなたの一声が、未来を選ぶ大切な一票になるのです。

ある団地の物語 -「他人ごと」が「我がこと」に変わった日-

最後に、私が関わったある団地のお話を紹介させてください。
築40年、住民の高齢化も進み、修繕への関心は正直言って低い状態からのスタートでした。
最初の説明会では、後方で腕を組み、不満そうな顔をしている方々がほとんどでした。

私は、技術的な説明はそこそこに、一枚のスライドを映しました。
それは、団地ができた40年前の写真です。
まだ小さかった木々、真新しい建物、そして笑顔の若い家族たち。

「この写真の中に、いらっしゃる方はいませんか?」
私の問いかけに、最初は静かだった会場が、少しずつざわめき始めました。
「ああ、これ私だ」「この木、俺が植えたんだよ」
そこから、空気が変わりました。

私たちは、工事の仕様を決めるワークショップを何度も開きました。
「昔みたいに、子どもたちが走り回れる広場がほしい」
「腰が痛いから、階段に手すりをしっかりつけてほしい」
一つひとつの声に耳を傾け、設計に反映させていきました。

そして工事が完了した日。
ピカピカになった団地を見て、あるおじいちゃんが私の手を取り、こう言いました。
「佐伯さん、ありがとう。ここはただの古い団地じゃなくて、俺たちの宝物なんだ。それを思い出させてくれたよ」

「他人ごと」が「我がこと」に変わった瞬間でした。
これこそが、私がこの仕事をする一番の喜びです。

まとめ

マンションの修繕は、決して怖くて面倒なものではありません。
それは、自分たちの暮らしを見つめ直し、未来をより良くするための、最高の機会です。

この記事でお伝えしたかった大切なポイントを、最後にもう一度振り返ります。

  • 「他人まかせ」の壁を壊そう:修繕への不安は、専門用語、費用、無関心の3つの壁から生まれます。まずはその正体を知ることが第一歩です。
  • 修繕は「再出発」という未来への投資:単なる延命ではなく、暮らしの価値やコミュニティを再生させるチャンスと捉えましょう。
  • 主役になるための小さな一歩:暮らしの健康診断、専門家への質問、アンケートへの回答など、今日からできるアクションを始めてみましょう。

建物は、人の暮らしを映す鏡です。

さあ、少しだけ時間をとって、あなたの住むマンションを見上げてみてください。
その鏡は、今どんな顔をしていますか?
そして、10年後、どんな顔をしていてほしいですか?

その答えを考えることこそが、「住民が主役のマンション修繕」の始まりです。

最終更新日 2025年11月12日 by ffther